演者: 阿古 潤哉 先生  北里大学医学部循環器内科学 教授

変遷しつづけるDAPT期間の考え方

 薬剤溶出性ステント(DES)留置後のステント血栓症を回避することを目的に、PCI後の標準治療として抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が広く行われるようになっている。しかし、DAPT期間をどのくらいの長さにするかについてはさまざまな考えがあり、すべての治療医が納得する見解は得られていないのが現状である。
 振り返れば、Cypherステントが使われ始めた当初のDAPT期間は、2〜4か月とされていた。その後、6か月は必要という考えになり、さらに、2006年の欧州心臓学会議(ESC)で12か月が提唱されたことをきっかけに、以降は12か月が標準的な継続期間として認識されてきた。とはいえ、1年という長いDAPT期間が本当に必要なのか、という問いに対する明確な答えはなく、至適DAPT期間を検証する臨床試験がいくつも行われるようになった。REAL-LATE / ZEST-LATE、EXCELLENT、PRODIGY、ITALIC、ISAR-SAFE、OPTIMIZEなどがその試験である(表1)。いずれの試験でも、DAPT期間を長くしても心血管イベントの減少にはつながらないという成績が報告され、DAPT期間は12か月よりも短くてよいのではないか、という考えが広まるに至った。
 これらの結果を受け、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでも、stable CADにおいてはDES留置後のDAPT期間は6か月と明記され、出血のリスクによってはそれよりも短く、あるいは長くすることを考慮するとされた(ただし、ACSに関してはそれまでと同様に1年間とされている)。

波紋を広げたDAPT試験

 そうした状況のなかで報告されたのが、DAPT試験である1)。DAPT試験は、DESもしくはベアメタルステント(BMS)を留置した患者約25,000例を対象とし、DAPT期間を12か月と30〜33か月で比較した試験で、33か月群は12か月群に比して、ステント血栓症、MACCE(脳心血管主要イベント)(図)の累積発現率が少ないことが示された。つまり、DAPT継続期間は長ければ長いほど、イベントは抑制される可能性のあることが示唆されたわけである。
 2015年のESCでは、OPTIDUAL試験という、DAPT試験と似たプロトコールで実施された試験の結果も報告され2)、この試験においても、約4年後の複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血)発現率は、DAPT群5.8%、アスピリン単独群7.5%であることが示された。
 これらの成績は、DAPT期間を再考するきっかけを作ったといえるが、これを額面どおりに受け取ることはできないこともまた確かである。なぜならば、これらの試験では、ステント留置から12か月までのDAPT期間に問題がなかった症例を無作為化したうえで検証されているからである。すなわち、12か月以降にみられたイベントの差は、ステント血栓症というよりは、新規のイベント発症をみたデータとも考えることができるのである。

DAPT期間は患者個々の状態を把握して設定すべき

 2015 年8 月に発表されたESC のガイドライン3)では、長期間DAPT に関して12か月の投与も考慮されると記載される一方で、NSTE-ACS においては出血ハイリスクの症例では3 〜 6 か月の投与が考慮されるとも記載されており(表2)、至適DAPT 期間に関する混沌が見て取れる。現時点でその意味を読み解くとすれば、DAPT期間を画一的に短くするのではなく、患者個々の状態を把握し、その期間を判断することが重要ということになるだろう。また、長期DAPTの有用性も考慮する必要はあり、どのような症例をその対象とするかについて、今後さらに検討していく必要があるといえる。
 さらに、DAPT後の抗血小板療法をどのような薬剤によって行うか、といった議論も活発に行われるようになってきた。2013年に報告され大きな話題となったWOEST試験4)は、その方向性を示すものであったし、現在進行中のGLOBAL LEADERS試験、HOST-EXAM試験、SMART CHOICE試験、TWILIGHT試験などの結果も待たれる。
 このように、DAPT期間の問題に加え、DAPT後の至適抗血小板療法についても議論は尽きない昨今である。

1)Mauri L et al. N Engl J Med 2014; 371: 2155-2166.
2)Helft G et al. ESC 2015, London, #3159.
3)Roffi M et al. Eur Heart J 2015 Aug 29. pii: ehv320. [Epub ahead of print]
4)Dewilde WJ et al. Lancet 2013; 381: 1107-1115.
表1 DAPT期間を検証した無作為化比較試験

図 DAPT試験におけるMACCE(脳心血管主要イベント)の頻度

表2 2015 ESC Guidelinesでの推奨

◆DAPT試験の発表以降、DAPT期間は変わったか?

森野 いま阿古先生がお話しされたように、DAPTに関するコントロバーシーは、現在最も注目される話題の1つです。ガイドラインは、臨床試験の成績をもとに策定されるため少しタイムラグがあり、必ずしも「今」を反映していないともいえるため、今日は、最も新しいわれわれの“コンセンサス”を討議していきたいと思います。
 まず、出席のみなさんの意見をうかがいます。DAPT試験の発表以降、DAPT期間は変わりましたでしょうか。

森野 禎浩 先生

出席者の主な発言

  • 患者さんの病態に応じてDAPT期間を考慮するという意味で、以前とは変わらない。抗凝固薬を服用している患者さんでは短くするケースが多いし、やはり出血リスクは重視すべき。ただし、長期間にわたり出血もなくDAPTが継続できた症例においては、さらにDAPTを長期継続することも今後は考えてもよいかもしれない。
  • DAPT試験は、ステント血栓症ではなく、新規の心血管イベントの抑制を示唆していると思われる。ステント血栓症の発現を抑制するという意味では、DAPT期間は短くてよいと考えている。
  • 出血が多いとされる日本人にも当てはめていいかどうかという問題もある。ステントの種類によっても違うだろうし、stableかどうかによっても判断は異なるので、やはり症例ごとにDAPT期間を設定する必要がある。
  • DAPT試験の除外基準を見ると、実臨床で苦慮する症例が数多く含まれていることから、この試験の結果は限定的と捉えている。
  • OCTなどの所見でuncovered strutが確認できた場合などは、DAPT期間を延長するようにしている。出血性副作用の発現が認められない症例においては、長く設定することも考慮する。

◆第2世代DES症例におけるDAPT期間は?

森野 今回参加されているほとんどの先生方が、DAPT試験の結果を見ても、それまでとDAPT期間の考え方を変えていない、という回答でした。次に、第2世代のDESを使用している症例における、DAPT期間の現状をお聞きしたいと思います。みなさんの基本的なDAPT期間はどのくらいでしょうか。

出席者の主な発言

  • 日本人のエビデンスであるSTOPDAPTの結果が報告されたので、Xienceを使用している症例においては、3か月を基準にしてもよいと考えている。
  • 短くできる症例もあると思うが、PCIが対象となる症例は全身的に動脈硬化が進行している例が多いので、DAPTを短期間で終了させることに対しては抵抗がある。長期的にみれば、今後起こりうる動脈硬化性のイベントを回避するという意味で、問題なく服用できる症例であれば、長期に継続することも考慮する。
  • 基本的に、問題がなければ1年といわず、永久的な継続も考えている。出血のリスクは当然あるが、日本人の出血は高血圧に起因するものが非常に多いと考えられるため、血圧管理をしっかり行うことでその問題は回避できる。実際、10年以上にわたって継続している患者も数多くいる。神経内科や脳神経外科からも、脳梗塞リスクの指摘は多々受けており、短期間でDAPTを終了するかどうかについては慎重に考えなければならない。ただし、DAPTの継続なのか、単剤でもよいのかについては、考慮の余地がある。
  • イメージングなどでリスクを確認し、問題がなければDAPTは短くし、問題があれば長くする、というのは大方の意見だと思う。注意しなければならないのは、心房細動を有する例である。抗凝固薬とDAPTの併用は出血リスクを高めるため、DAPT期間をできるだけ短くし、単剤に移行するようにしている。その際は、頭蓋内出血や消化管出血のリスクも考慮した抗血小板薬の選択を行うというのが院内のコンセンサスである。

◆アスピリン+クロピドグレル配合錠の使用経験は?

森野 DAPT期間は6~12か月が多く、症例によって短くもするし長くもする、というのが多くの先生方の見解のようです。では、DAPTに用いる薬剤についてお聞きします。最近、アスピリンとクロピドグレルの配合錠(コンプラビン)が登場し、服用薬剤数が多い患者さんにとって朗報という意見もあります。みなさんはコンプラビンの使用経験はありますか。

出席者の主な発言

  • コンプラビンは最初から使用したいが、最初から使用すると、患者さんが2剤服用の必要性を理解しない場合がある。なので、十分説明したうえでアスピリンとクロピドグレルを処方し、患者さんの服薬状況を確認したうえでコンプラビンを使用するようにしている。
  • 病院の方針で、配合剤は使用しないことになっているので、まだ使用経験はない。

ACS患者にDESを使用するか?
安定狭心症とACSでDAPT期間を変えているか?

白井 DAPT期間は、患者さんの病態によって変えていく必要があると思いますが、その前に、先生方はACSの患者さんにDESを使用していますでしょうか。また、安定狭心症とACSとで、DAPT期間は変えていますでしょうか。

白井 伸一 先生

出席者の主な発言

  • 安定狭心症では6〜12か月、ACSでは1年以上とすることが多い。第2世代のステントを使用した際にはどうなのか、もう少し検討しなければならないが、OCTやIVUSなどで問題があるような病変の場合は、1年以上の継続が必要と思われる。
  • ACSの場合は、ステントを留置した部位以外の血管にも病変が起こりうることを考えると、stableな症例よりは、DAPT期間を長くする必要があると考える。

◆PAD(末梢動脈疾患)の有無によってDAPT期間を変えているか?

白井 ACSにもDESを使用している先生は非常に多く、また、ACSではDAPT期間を長くしている先生が多いようですね。いま指摘があったように、冠動脈だけでなく、全身性の動脈硬化性疾患という観点からもDAPT期間を考慮する必要がありそうですが、例えば、PADの合併の有無によって、DAPT期間を変えているでしょうか。

出席者の主な発言

  • 基本的には変えていない。頸動脈に高度な狭窄がある場合はDAPTを継続する意味もあるが、PADの場合はクロピドグレル単剤でコントロールできると考えている。ただし、頸動脈ステントを留置している症例の場合はDAPT期間を長くすることが多い。それは、脳神経外科の先生とも一致した考えである。
  • 重要なのは心血管イベントを起こさないことなので、全身の血管病変には十分な注意を払う必要があるが、抗血小板薬単剤でも十分な効果は得られる。問題は、どの抗血小板薬を用いるかである。

白井 先生方、ありがとうございました。
 今日は、DAPT期間をめぐって討議をしてきました。PCI治療は大きな進歩を続けてきましたが、一方で、その時々でわからないことも生じます。DAPT期間は短くてよいのか、それとも長いほうがよいのか。また、症例ごとにその期間をどう決めていけばよいのか。まさに“答えのない”課題が残されているといえます。答えがないとは言っても、どこかに真実はあるのではないか、そんなことを考えながら、これからも議論を続けていければと考えています。

2015年12月作成 SAJP.ACC.15.12.3573

※所属先や肩書は開催当時のものです。